「ベートーヴェン ピアノ・ソナタ」の勉強(2)

3回目の全曲演奏(2回目と3回目は非公開で自分の勉強のため)は「告別」ソナタOp.81まで来た。

Op.57(熱情)では第2楽章の第2変奏まで、変奏の冒頭に拍子記号が新たに表示されているのは初めて見たことと、第62小節の和音が従来のものと違っている。

 第1楽章では以前から「più allegro」が気にはなっていた。この言葉は本来「今までより速く」という意味なので、この楽章の基本テンポ「Allegro assai」より速くなるのかどうか、という問題である。いろいろな演奏を聴いたが、直前のadagio から速くなるのは当然として、元の速さに戻ったような演奏は多い(例えばアラウ、ギレリスなど)。リヒテルの演奏だと主部でかなりテンポの動きがあり、コーダではさらに速くしているように聞こえる。https://www.youtube.com/watch?v=MZ2J1eFM-Rs

ビューロー版では主部のテンポを付点4分音符=126(第2主題は112)として、コーダを160というように指示している。

「最初の速さ」に戻すのなら「Tempo Ⅰ」と書く方法もあるのだが、ベートーヴェンはなぜ「più allegro」と書いたのかということである。

彼の作風を考えてみると、ピアノ・ソナタでは中期作品から最終楽章のコーダでテンポを上げる方法をとることが多くなる(第15番Op.28、第16番Op.31‐1、第21番Op.53、第22番Op.54など)。この考え方だとピウ・アレグロは楽章のコーダでテンポを上げることを意味するようにも思えるのだが、第1楽章の最後でテンポを上げる例は思い出せない。ベートーヴェンの考え方は「最終楽章に向かう音のドラマ」にあるとすれば、第1楽章で「熱情」が最高潮に達することは抑えたかったのではないか。とするなら「ピウ・アレグロ」の解釈は演奏者に投げかけているというようにも思われる。このコーダでの第248小節、右手最後の音符はそれまでの16分音符ではなく8分音符になっており、ずっと保ってきたリズムが変化していることなども考察する価値があるようにも思う。

第24番Op.78では第1楽章第16小節の左手4拍目の音がDis-Fisとなっているのを発見。注解書を読むと、2つの違いは意図的なものであることを警告するかのように sf の配置の変化によって示されている、とのこと。なるほど、と思ったがこれはすでにHenle版でも指摘されていたことを見逃していた。こういうことはよくあるので今後もっと調べてみたい。第2楽章の第47小節の音がHenle版と違っているがこれは第16小節に合わせた音になっている。資料に基づいた選択だと思うが、Henle版が正しいと思い込んできた私としてはかなり驚いた。Universal(Schenker)版ではこの楽譜と同じ音になっている。

第25番Op.79は第1楽章の第110小節。従来の楽譜ではここでpとなっているが書いてない。ここまでcresc.が妥当ということが注解書に書いてある。

第26番Op.81aは、レイアウトがきれいにできており譜めくりがしやすいことに気づく。とくに第1楽章全体と第2楽章の最後。それと第3楽章第20小節の右手がAs-AsとなっているがこれもHenle版では指摘されていたことだった。大抵の楽譜はAs-Cとしてある(以下譜例の★の箇所)。よく考えると10度の跳躍を合わせるよりソプラノの動きが左手の和音を考慮してAsとなった方がきれいにも思える。注解を読むとなおさらこの音が良いようにも思えてきた。(この箇所について音名を間違えて表示していました。10月20日に訂正しました。)

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こういう勉強は非常に楽しい。