「ベートーヴェン ピアノ・ソナタ」の勉強(3)

第27番ホ短調Op.90。この曲は中学生のころ勉強した。2楽章形式で、後期への過渡期という位置にある作品だと思う。

久しぶりで弾いてみると私の好きな曲であることを再確認した。2楽章制ということではOp.49、Op.54などにも例があるが前者は若いころの「ソナチネ」なのでこの曲と同列には語ることはできない。後者は中期の作品群の中にあって実験的な要素を持っている。しかしこのソナタはそのいずれとも違って、のちのOp.111 につながるような後期様式への流れにある曲だと思った。

例によってベーレンライター版を使って演奏してみたが、第1楽章の第61小節で1拍目が8分休符になっているのを久しぶりで見た。注解も読んだが、これを書いていくと長くなるので省略する。一番驚いたのは再現部の第1主題、第164小節の左手である。大抵のエディションは提示部と同様になっているのだが、自筆譜によるとGis-H-Eの付点二分音符の和音になっているとのこと(私も確認 )。それならなぜ、ということについてはやはり注解を読んでいただきたい。ちなみに今まで文句を言ってきたウィーン原典版でもこの音を採用している(知人に全集を進呈したことを少しだけ後悔している)。第2楽章でも第13小節伴奏形の音がヘンレ版の音と違っている。その昔、音友版で弾いていた音と同じになっていることには複雑な思いがしたが、これも注解を読むとなるほどという気もする。

第28番 Op,101。何度も演奏した曲だが、若いころは評論家諸氏が絶賛するほどにはこの曲が名曲だと思わなかった。しかし今回演奏してみて、やはり名曲には違いないと思う。ただ、ベートーヴェンの作品としては中期までの作風とはあまりに違いすぎるという面はあるだろう。そういう意味では小松雄一郎氏の言う「停滞期」にあたるのかもしれない(『ベートーヴェン書簡選集・下』)。その、気持ちが逡巡するようなところにこの曲の魅力があるようにも思った。私としては第1楽章のロマン的情緒と第3楽章の深い瞑想的表現は何度弾いても感動するところである。この作品の第3楽章、第21小節で第1楽章主題が再現するところでの「tutto il Cembalo」という表記についてはすでに何度も書いたのでここでは省略する。そしてこの部分でのタイの解釈についてはベーレンライター版の注釈を読むと納得できるものがあると思う。第3楽章(考え方によれば第4楽章)の展開部フーガ、ベーレンライター版第179小節で従来の音とは違った音が見られたが、これについては複雑な心境だ。すでに慣れてしまった音で弾きたいとは思う。

さて、次は第29番変ロ長調Op.106「ハンマークラヴィーア」。この曲を演奏するのには精神も体力も必要である。現在の状況を考えると、次にこの曲を演奏するまでにはもう少し時間を置きたい。

そのくらい、ベートーヴェンの後期作品は簡単なものではないという気持ちに最近はなっている。