「ベートーヴェン ピアノ・ソナタ」の勉強(5)

「ピアノ・ソナタ第29番 Op.106」の続き。今回は基本的に問題提起にとどめる。近いうちに演奏し、その後、自分の意見を書いていきたい。

第1楽章  第210小節の音、および再現部直前の音についてはすでに書いた。そのほかの問題点としては以下の通り。

・ 第2主題がどこから始まるかということがある。多くの書では第63小節から(第62小節の最後から)と書かれているが、そうすると第45小節でト長調に転調したあとの第47小節からの流れは推移ということになるのだろうか。これについてチャールズ・ローゼンは「数小節経過しただけでト長調の調性空間にいることが分かるが、完全な確認、すなわち解決は、第63小節で、下行3度またはその補足音程である6度上昇のみで構成される新主題が現れるまで控えられる」という考え方に従いたい。

・ 今でも分からないのは二分音符=138というメトロノーム記号である。当時の機械の精度が悪かったせいではないかと一時考えてみたこともあるが、「壊れていたと想定させる根拠はほとんどない(大崎滋生『音楽演奏の社会史』)」ということらしいので、ベートーヴェン交響曲の問題と同様、作曲家は自作品にしばしば速すぎるテンポ表示を行うものだという考え方しかないのだろうか、と思う。シューマンもしばしば速いメトロノーム表示を行っており(トロイメライなど)、クララ・シューマン版ではそれが遅めのものに変更されていることや、作曲家が「改訂版」を作成する際にテンポをしばしば変更することなどもある。

第3楽章

・ 第76小節の八分音符第3拍目の右手: しばしばヘ音記号の音で演奏されるが、音楽的には分かるが楽譜からそのようには読めないので、この奏法は私は採用しない。

・ 第178小節の左手音形: 次の小節との関連を見ると5拍目での不自然な形は作曲者による誤りとも思われるが、こういう音を覚えるのも暗譜には大事と考えて、直さずにそのまま演奏することにしている。こういう箇所を見るといつも「ピアノ協奏曲第5番」第3楽章の第82小節と第329小節の関係を思い出すが、この協奏曲の音を変更しようとする人はたぶんいないだろう。

f:id:MickN:20201108095024p:plain

・ 第187小節(楽章最後)の「tutte le corde」: ベーレンライター版だと「clealy here in sources, but possibly error?」と注が付けられていた。第4楽章冒頭で左ペダルを上げるのなら自然であるが、どうなのだろうか。これも今後考えてみたい。カセッラ版にはなるほどと思わせる意見が書いてあった(以下譜例)。

f:id:MickN:20201108085722p:plain

第4楽章  フーガについては属啓成『ベートーヴェンの作品 上巻』による分析が参考になる。全体で8つのフーガから構成されているというもので、特に第4の「逆行フーガ」が面白い。

・ 第6の「新主題によるフーガ」の部分: 第261小節からの流れで♮に演奏すべきという意見には納得できる要素もある。しかし私はここは楽譜に従って演奏した。第252-3小節にも同様の音程が見られるというのがその時の根拠だった。「C」で演奏する人(ブレンデルなど)、「Cis」で演奏する人(ギレリスなど)、いろいろ分かれているようではある。譜例はブライトコップ版の全集であるが、#が付けてある。

f:id:MickN:20201108092048p:plain

・ 第296小節第3拍: 「C」であるが主題の音程に合わせて「D」に修正してある版もある(ヘンレ版、ベーレンライター版など)。

・ 第392小節の第3拍: ここだけ4分音符となっているが、ベーレンライター版では「交響曲第6番」第1楽章の記譜のことも参考に書いてある。実際問題としては8分音符だという説もそうかとは思うが、フィッシャー版で示されているように、主題の冒頭動機が3回ずつ繰り返されることを理解するということも大事だとは思う。

この作品は年内にはたぶん演奏できると思う。その時に何か気が付いたらまた続きを書く予定である。