アンサンブルの必要性

「ピアノ学習における」という但し書きでお読みいただきたい。どんな楽器でも基本は独奏からであろうが、特にピアノ演奏の勉強では独奏が多いため、得てして独りよがりになりやすい、という意見は何度も聞いてきた。

単旋律のみを奏でる弦楽器(重音はもちろん出せるが基本的に、ということ)や管楽器などだと伴奏があってはじめて曲になるということが多く、自然とアンサンブルを学んでいくのだと思うが、ピアノでは、教則本のころに先生との連弾を行うことはあっても、中級くらいになるとほとんどが独奏になる。昨今のコンクール文化で、課題曲ばかり学習することになる、という現実もあるようだが、これでは音楽の楽しさのひとつ「 合奏」を経験しないまま育つということになり、あまり健全な音楽学習という気はしない。

そんな訳で、ピアノの指導には2台必要だと考えている。先生の範奏という意味以外に、学習者の演奏に即興で伴奏を加えて協奏曲風の体験をしてもらうことができるのが重要だからだ。この「即興」で音楽を編曲するという能力は今後の音楽家に必要となってくるように思うがどうだろうか。以前、学習者に右手だけ弾いてもらい、左手パートを違った伴奏にしたらどうなるでしょう、などとこちらで編曲してみたところ学習者の表情が実に嬉しそうに変わったことがあった。その後、オリジナルの譜面で演奏してもらったところ、その前とは全く違った生き生きとした演奏ができていることに気がつき、やはり音楽は「こう弾いたら楽しい」「こう弾きたい」「こんな音楽を表現したい」というように感じることが大事だと思った。先生から「こう弾かないとコンクールに勝てませんよ」などと習うことって何だろうか、とはよく思うことである。

「ピアノ協奏曲」を勉強することも大切だ。オーケストラの表現力に合わせるというアンサンブルの勉強になるし、表現の積極性も身につくと思う。

このピアノ協奏曲の話で、実際にオーケストラと共演をするときには、オーケストラの側から曲を指定されることがほとんどであることを意外と知らない人がいるように思う。というのは、例えばあるピアニストがアマチュア管弦楽団と何か共演できそうだ、というときに自分は〇〇を弾きたいのですが私に合っていますか、などと相談されることがあるので。自分から曲を決めるのは、例えば自費でオーケストラを雇って指揮者にも報酬を払う種類のコンサートを企画するような場合で、ほとんど現実的ではない。そんな訳でふつうは曲はすでに決まっていて、その曲を弾いてもらいたい、という依頼が来るはずである。そんな訳で、相談をされたとしても「それはオーケストラの方々と話し合ってください」としかお答えはできないのが普通である。

私の経験ではこんなことがあった。いずれあるオーケストラとの演奏ができるはずだが5曲のなかから選ぶことになるのでその5曲は準備しておいてほしい、という依頼である。モーツァルト(第21番)、ベートーヴェン(たしか第5番)、リスト(たしか第1番)、グリーグチャイコフスキー(第1番)、ラフマニノフ(第2番)、というような曲目が来て、1曲外してよいということだったのでチャイコフスキーは除外してもらったことを覚えている。それからは受験生のように練習をした。ちょうど購入したピアノ(ヤマハG2)に夜間練習用の防音装置がついていたので毎日夜中まで練習したものである。結果はモーツァルトに決まったのだが、実際に協奏曲を演奏するのはかなり緊張感のある仕事であった。練習は直前の1回しかなかったこともプロならよくある話。

アンサンブルの演奏会開催でも、先ほど書いたように練習はそれほど多く設定できないことが多い。普通は2回くらい、多くて3回合わせて本番、となる。また2台ピアノの演奏会は企画してみたとは思うが、昨今のコロナウィルスの蔓延の中で、いったいいつ実現できるのかは分からない。しかしアンサンブルの演奏は大事なので、その時期が来たらすぐに何か演奏できるようにはしておきたいと思うところである。